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No. 18 熊井 信弘 (関東支部) (2006年06月10日)

カテゴリー: General
TOEIC読みの英語知らず!?
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最近、なぜかどこに行ってもTOEICばやりである。TOEICが英語力を示すための1つの指標と考えられ、多くの企業が就職活動の際のエントリーシートに英語能力試験の得点を書かせていることなどから、いきおい学生はその点数を上げることに執心になっている。

そのため大学の通常の英語の授業においても、TOEIC対策の授業が行われている。確かに学生のニーズもあり、学習の目標がはっきりしているため授業もやりやすいに違いない(まことに味気ない授業であろうが)。しかしながら、TOEICの得点が600点、700点といっても、ちょっとした英文が読めなかったり、簡単な英語の質問にうまく答えられないのを見るとつい首をかしげてしまいたくなる。点数を上げるためのテクニックやストラテジーを学んでも、小説やインターネット上の記事が読めたり、ニュースを見てその内容を理解し自分の意見を述べることができるような力には結びついていないように思える。
昔学生の頃、安井稔先生が英語学の授業で「チョムスキー読みの英語知らず」になるなとおっしゃっていたことを思い出す。チョムスキー関連の本や論文を読んで理解できるからといって、英語がわかったような気になるなという戒めである。専門の領域に関する知識が十分あったとしても、英字新聞の記事が読めないとか自分の意見を英語でわかりやすく相手に伝えることができないのでは困るのである。そして周りを見回せばもっと広く豊かなおもしろい英語の世界が広がっていることに気がつかなければならない。
これと同じようなことがTOEICばやりの今にも起きているとは言えないだろうか。TOEICを現在自分の持っている英語力を測るための一種の「ものさし」として利用するのはよいだろうが、周りの広く豊かな英語世界に目を向けず、それ自体が目的化してしまっていることに問題がある。「TOEIC読みの英語知らず」にさせないよう気をつけたいものである。
今年から大学入試センター試験に導入されたリスニングテストにも同様のことが言えるかもしれない。リスニングテストは中・高の英語教育に大きなインパクトを与えていると思われるが、「リスニングの指導」と称してリスニングテスト対策のための問題演習ばかりしていても、英語の話を聞いてその内容をリアルタイムに理解し、それに対する自分の意見を英語でまとめられるような力がつくのか心配なのは私だけではないだろう。
次は『英語学習のための情報リテラシーブック』でおなじみの同志社大学の西納春雄(にしのう はるお)先生(関西支部)です。8月の全国大会では私や前回の境一三先生らとともに「Moodleを活用した外国語学習支援」についてのシンポジウムを行う予定です。

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